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大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)3940号 判決 1991年3月11日

《目次》

当事者の表示

主文

事実

第一 当事者の求めた裁判

一 請求の趣旨

二 請求の趣旨に対する答弁

第二 当事者の主張

一 請求原因

1 当事者

2 被告会社におけるダイヤモンド販売の仕組み

3 違法性

4 被告らの責任

5 損害

二 請求原因に対する被告らの認否

三 被告らの反論及び主張

1 本件商法について

2 原告らの損害について

第三 証拠

理由

(証拠について)

第一 当事者

第二 被告会社の設立から営業停止まで

一被告会社の設立及び事業計画

二 被告会社の事業の展開

1 トレーナー教育

2 営業の開始及び拡大

三 被告会社の営業停止

1 豊田商事に対する社会的批判及び同グループの崩壊

2 被告会社に対する社会的批判及び同社の営業停止

第三 被告会社の商法における組織と問題点

一 被告会社の商法における組織

二 ダイヤモンドについて

1 被告会社のダイヤモンド

2 ダイヤの商品としての特殊性

三 本件組織の問題点

1 無限連鎖講との共通性ないし類似性

2 リクルートの有限性ないし組織破綻の必然性

四 経済的損失について

1 宝石が残ることについて

2 愛好会特典について

第四 被告会社の勧誘活動

一 被告会社の勧誘活動と問題点

1 勧誘の対象者

2 顧客の被告会社への案内

3 ビューティフル・サークル(BC)

4 BDA又はBDMによる勧誘

5 宝石の購入申込み

6 ビジネス教室

7 承認面接及び販売媒介委託契約の締結

8 マネージメント・コンサルタント・クラス

9 まとめ

二 顧客の反応

第五 被告会社の商法の違法性

一 無限連鎖講防止法との関係について

二 訪問販売法との関係について

三 独占禁止法との関係について

四 その他

五 まとめ

第六 被告らの責任

一 被告会社の責任

二 被告小城の責任

第七 損害

一 宝石購入代金等

二 MCC受講費用

三 印紙代

四 慰謝料

五 弁護士費用

六 損益相殺

七 まとめ

第八 結論

別紙 当事者目録

別紙 損害一覧表

別紙 認容額一覧表

当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり

主文

一  被告らは、連帯して、原告らそれぞれに対し、別紙認容額一覧表の合計欄記載の各金員及び同表の内金額欄記載の各金員に対する昭和六〇年六月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その二を原告らの連帯負担として、その余は被告らの連帯負担とする。

四  この判決の一項は、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、連帯して、原告らそれぞれに対し、別紙損害一覧表の合計欄記載の各金員及び同表の内金額欄記載の各金員に対する昭和六〇年六月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 被告ベルギーダイヤモンド株式会社(以下「被告会社」という。)は、宝石等の卸売及び小売を目的として設立された株式会社であり、被告小城剛(以下「被告小城」という。)は、被告会社の代表取締役である。

(二) 原告らは、被告会社から宝石(ダイヤモンド。以下「ダイヤ」ともいう。)を購入して被告会社との間に宝石の販売媒介委託契約を締結し、その販売媒介組織の会員(ビジネス会員)となった者である。

2  被告会社におけるダイヤモンド販売の仕組み

(一) 被告会社は、その会員を宝石(ダイヤモンド)の販売者としてではなく、販売媒介者として組織し、同販売媒介組織は、上位ランクからベルギーダイヤモンドマネージャー(以下「BDM」という。)、ベルギーダイヤモンドエージェント(以下「BDA」という。)、オフィシャルメンバー(以下「OM」という。)、ダイヤモンドメンバー(以下「DM」という。)の四ランクに分け、下位ランクの者は直上ランクの者に属し、BDMを頂点としてピラミッド型の階層をなしている(以下被告会社の商法を「本件商法」、その販売媒介組織を「本件組織」という。)。

(二)(1) DMとなるには、被告会社から宝石を一個買い、被告会社の承認面接を受けて被告会社との間に販売媒介委託契約を結ぶほか、被告会社の主催するマネージメントコンサルタントクラス(以下「MCC」という。)と称する教育を受けなければならない。

(2) DMからOMに昇格するためには、DMを三名以上育成するほか、自己とその下位の会員の販売媒介累積額で二一〇万円以上をあげなければならない。

(3) OMからBDAに昇格するためには、OMを三名以上育成するほか、自己とその下位の会員の販売媒介累積額で八〇〇万円以上をあげなければならない。

(4) BDAからBDMに昇格するためには、BDAを三名以上育成するほか、自己とその下位の会員の販売媒介累積額が一八〇〇万円以上でなければならない。

(三) 被告会社の会員の収入の方法は、販売媒介手数料、指導育成料、オーバーライドの三種類である。

(1) 販売媒介手数料率は、自ら顧客と被告会社の販売媒介を行なった場合に、会員のランクとその累積販売媒介額を基準として被告会社から支払われる手数料であり、

BDM 四七パーセント

BDA 三七パーセント

OM 二二ないし三二パーセント

DM 一五ないし三二パーセント

の各料率とされている。

(2) 指導育成料は、自己の下位の会員が販売媒介した場合に支払われる手数料であり、自己に適用される右料率と、当該下位の会員に適用される率の料率差を販売媒介額に乗じて算出する。

(3) オーバーライドは、BDAとBDMについてのみ支払われる手数料である。即ち、BDAについては、その下位の者がBDAとなり当該子のBDA若くはその下位の者が販売媒介した場合に、右子のBDAを育成した親のBDAに販売媒介額の四パーセントを、子のBDAが更に孫のBDAを育成し、当該孫のBDA若くはその下位の者が販売媒介したときには、前記親のBDAに販売媒介額の二パーセントをそれぞれ支払うとするものである。BDMについても、右と同じく、下位の者がBDMとなり、当該子のBDMないしはその下位の者が販売媒介した場合に二パーセント、孫のBDM、又はその下位の者が販売媒介した場合に一パーセントの報酬がそれぞれ支払われる。

(4) したがって、上位の者は直接に販売媒介をしたときの手数料が高いだけでなく、自分の下位の会員が多ければ多い程、直接に販売媒介をすることなく収入を得る機会が増す仕組みになっている。

3  違法性

(一) 本件商法の仕組み自体の違法性

本件商法は、自己の配下の会員がネズミ算的に増えていくことにより、その配下の者の販売媒介行為により莫大な利益が得られるとするものである。

すなわち、被告会社の会員の収入の方法は右2(三)のとおりであるが、まず、販売媒介手数料率はDMからBDAに上昇するにつれ上昇するとされており、指導育成料及びオーバーライドといった自己の配下が販売媒介することだけで得られる収入(非稼働利益)の途も設けられているから、上位に行けば行く程収入が増える仕組みとなっている。そのゆえに、専ら利益を目的として加入した会員としては、単にDMにとどまることなく、より上位の資格を得て直接の販売媒介手数料率を上昇させ、かつ右の非稼働利益をより多く得られるよう自己の配下を獲得すべく奔走することになる。

ところが、一人が他の一人を勧誘し、各自一か月一人宛新規会員を勧誘すると、三二か月後には二の三二乗となり、四二億九四九六万七二九六人となって、地球上の全人口を超える計算となることは計数上明らかであり、マルチ商法の本質には会員勧誘(リクルート)の有限性が存するといわざるを得ず、このような仕組みは最終的に破綻するものである。

計算上の問題としてのみならず、現実の問題としても販売媒介して会員を加入させることは容易でなく、本件商法の組織原理に疑問を抱く者も多いと考えられるから、これが一定の限度で地域的にも限界点に到達し、新たに会員を勧誘することが、事実上困難となるなど行き詰まることは明らかである。本件商法では、この商法を早く始めた一部の者だけが儲かり、最終的には、出資金すら回収できないで損害を被る多数の被害者を必ず生むことになるのであり、これは本件商法の仕組みに内在する必然の結果である。

ダイヤの購入代金はダイヤのみの対価ではなく、むしろ本件組織への加入金、具体的にはDM資格取得のための対価としての意味を持っている。すなわち、ダイヤの購入者は、決して心からダイヤが欲しくてこれを購入するのではなく、ダイヤを一個購入して本件組織に加入することにより、利益をあげようとしてこれを購入するのである。したがって、ダイヤの代金(概ね三〇万円以上)の出捐は一種の投資に外ならず、購入者の関心は専らその投下資本の回収、更には利益をあげることにある。もしも、購入者が自ら誰一人として新たな購入者を勧誘することができなければ、投下資本として出捐したダイヤの購入代金は、結局回収することができずに終わるのである。したがって、購入者は、本件組織に加入するに当たり、ダイヤの購入代金相当額のリスクを負わされていることは明らかである。

このことは、仮にダイヤにある程度の価値があったとしても変わらない。

すなわち、購入者は、ダイヤが欲しくてダイヤを購入するのではなく、本件組織に加入して、利益をあげることを目的としてダイヤを購入するのであるから、本件商法が実はいち早くこれを始めた一部の者だけが儲かり、大多数の者がダイヤの代金すら回収できないことがわかっておれば、誰もダイヤを購入したりはしないであろうし、その意味で購入者は、全く不必要なものを購入させられているのである。しかも、本件商法は、ダイヤという流通マージンが比較的高く、かつ品質及び価値の曖昧な商品をマルチ商法の材料として選び、前記リスクを巧みにダイヤの代金でカモフラージュしようとしているのである。その結果は、リクルートが幾段階も進めばたちまち破綻し、組織の上位に位置する一部の者だけが儲かり、大多数の者が自己の投下した資本(ダイヤの代金)を回収できず、被害が現実化するという著しく不合理な結果を招来することになる。

以上要するに、本件商法の違法性は、商品の価値の有無に左右されず、会員勧誘が不成功に終われば会員の被害は現実化し、成功すればする程最後に泣く者が増え、被害者なしで終わることはない。そして、本件商法においては被害者が加害者となり、人間関係の破壊、経済的破綻などを招来するものである。したがって、このような仕組みは、それ自体公序良俗に反し、違法なものといわなければならない。

(二) 無限連鎖講の防止に関する法律との関係

本件商法は昭和六三年法律第二四号による改正前の無限連鎖講の防止に関する法律(以下「旧無限連鎖講防止法」という。)により禁止されている同法二条の無限連鎖講に該当し、違法性を有する。

(1) 本件組織は商品(宝石)取引と合体しているが、このことは右組織が無限連鎖講に当たるか否かの判断にとって決定的意味を持たない。商品の販売に名を借り、あるいはその外形をとっているものの、実質的には金銭の支出・配当が旧無限連鎖講防止法二条の要件を具備する限り、同条にいう「金銭配当組織」に当たると解すべきである。したがって、端的に右組織が同法二条の要件に該当するか否かが問題となるのである。

(2) 「一定額の金銭を支出する加入者が無限に増加するものであるとして」という要件について

被告会社の商法に加入するためには、ダイヤ購入名下に被告会社に一定額の金銭を支払い、DMとなる。そして、自己の支出金を回収しようと思えば、自己の後順位者としてDMを三名以上加入させなければならない。「加入者が無限に増加するものであるとして」の規定は、加入者が無限に増加するものとしての前提にたたなければ、その組織・仕組みが成り立たないものであることを意味する。被告会社の商法は、DMとなった者が自己が支出した金員を回収し、あるいはそれを上回る金銭を取得するために、自己の配下となるべき新たなDMを勧誘することが前提されているのであるから、ダイヤ購入名下に金員を支出する者が無限に増加することを前提としてはじめて成立し得る組織・仕組みであることは明白であり、法の前記要件に該当することは明らかである。

(3) 「先に加入した者が先順位者、以下これに連鎖して段階的に二以上の倍率をもって増加する後続の加入者がそれぞれの段階に応じた後順位者となり、順次先順位者が後順位者の支出する金銭から自己の支出した額を上回る金銭を受領すること」という要件について

本件商法では、宝石代金名下に金銭を支出した者が受け取る配当は、その者と連鎖して加入してくる後順位者の支出する金銭の中から支払われることになる。すなわち、被告会社の組織に加入した者は、後順位者があることによってはじめて右配当を得ることが可能になるのであり、宝石代金名下の金銭を支出する者が連鎖して無限に増加することによってはじめて維持できる組織である。加入者が自己の支出した金銭を回収あるいはそれを上回る金銭の配当を得るためには、最低でも自己の配下となるべき加入者を三名加入させなければならないのである。そして、加入者は自己の配下となるべき者が順次増えるにつれてその地位が昇格し、その昇格した地位に応じて配当を取得するのである。

(4) 以上により、本件組織が法二条の要件に該当することは明らかである。

(三) 訪問販売等に関する法律との関係

本件商法は、昭和六三年法律第四三号による改正前の訪問販売等に関する法律(以下「旧訪問販売法」という。)が実質的に禁止しているいわゆるマルチ商法と同様のものであり、違法である。

(1) 同法の「物品の再販売」の要件を本件商法は、「販売媒介委託」という形態をとって回避せんとしている。しかし、いわゆるマルチ商法の本質は、リクルートにより組織を無限に拡大再生産することにあり、右目的を達するには、何ら「再販売」という形態をとる必要はなく、これはマルチ商法の必然的な要件ではない。旧訪問販売法が「再販売」を要件としていたのは、立法当時蔓延していたマルチ商法がたまたま「再販売」を要件としていたからにすぎない。

(2) 次に、本件商法では、会員は、自己又は配下の会員の宝石の販売媒介につき、被告会社から各種の手数料を支払われるが、これが「特定利益」の要件に当たることは多言を要しない。

(3) 第三に「特定負担」の要件であるが、本件商法の場合、組織に加入するには必ず被告会社の宝石(ダイヤ)を購入しなければならず、加入者は宝石の購入代金名目で「特定負担」をしていることは明らかである。

(四) 勧誘方法の違法性

被告会社は、顧客に宝石を購入させてその販売媒介者として組織するために、不当、誇大な宣伝を行い、かつ極めて詐欺的、脅迫的な勧誘を行っている。

(1) 被告会社は、ダイヤを購入させるという真の目的を秘したまま、ただ単に「いい話がある。」とか「儲かる話がある。会ってからでないと言えない。」などと顧客を欺いてその興味をそそり、被告会社の主催する「ビューティフルサークル」と称する会場に連れてくる。

(2) こうして集めてきた顧客に対し、被告会社はビューティフルサークル会場において一種の集団催眠を施し、健全な理性を麻痺させる。すなわち、会場を極めて豪華に演出し、正装した男女の既会員に新入者を握手攻めにさせ、映画を見せ、数人の成功者の話なるものを聞かせる。それは、ベルギーダイヤモンド商法は、すばらしい夢のような商法であること、この商法に参加すれば数か月後には容易に月収数百万円の利益をあげられることなどを繰り返すものであり、その都度盛大な拍手をさせ、会場の雰囲気を異常な興奮状態に高め、顧客をしてこの商法に参加すれば誰でも月収数百万円という高収入が容易に得られるかのごとき錯覚を起こさせるものである。

(3) このビューティフルサークルの後、数人がグループになって一人の新入者をとり囲み、預金通帳などを見せて現実に月々数百万円の収入があるかのように説明し、この商法に参加すれば誰でも容易に高収入が得られるかのような説明を繰り返し、本件商法に参加するよう執拗に勧誘する。

そして、この夢のような儲け話に心を動かされた顧客に対し、この商法に参加するためには被告会社の宝石を一個買わなければならないこと、しかし、この購入代金は三人子会員を増やすだけで元がとれること、その後は自分の配下の子会員、孫会員、ひ孫会員らの働きにより莫大な利益が得られること、などを説明しながら執拗に購入を勧める。

なかなか決断しない者に対しては、これほどのいい話を無駄にするのは馬鹿だとか、あるいは自分を信用できないのか、などと半ば脅迫的言辞を弄しながら購入を迫るのである。

(4) こうして、被告会社は、本件商法に参加すれば、異常な高利益が容易にあげられるかのごとき誇大な宣伝、勧誘を行い、顧客の健全な理性を麻痺させてその旨錯覚させ、あるいは執拗で半ば脅迫的な勧誘を行い、よって、顧客に宝石を購入させ、本件商法に参加させているものである。

(五) 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律との関係

私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)一九条は、不公正な取引方法を禁止、その内容を同法二条九項で規定するとともに、昭和五七年六月一八日公正取引委員会告示第一五号で「不公正な取引方法」の具体的内容を例示している。

被告会社の前記不当な勧誘方法は、右告示の第八項(欺瞞的顧客誘因)、第九項(不当な利益による顧客誘因)に該当する。

以上の点において、被告会社の行為は、独占禁止法一九条、二条九項の「不公正な取引方法」に該当する違法なものである。

4  被告らの責任

被告会社及びその代表者代表取締役である被告小城は、右3の違法行為をなしたものであるから、民法七〇九条により損害賠償責任を負う。

また、被告小城は違法な本件商法の実施について重大な過失があったから、商法二六六条の三に基づく損害賠償責任もある。

5  損害

原告らが、本件商法により受けた損害は、別紙損害一覧表記載のとおりであり、その内訳は以下のとおりである。

(一) ダイヤモンド購入代金

原告らは、被告会社の本件商法により、別紙損害一覧表記載のとおり、被告会社からダイヤを購入させられた。

ダイヤの購入は、被告会社の主催する本件商法に参加するための入会資格であり、原告らは多額の収入が得られるとの甘言に乗せられて右商法に参加するために、不必要な宝石を購入したものであるから、原告らは購入代金と同額の損害を被った。

(二) MCC受講料

MCCは会員となった者に対し、「人を増やすことが莫大な利益の取得につながる」とのマルチ商法の基本思想を吹き込む洗脳教育であり、被告会社が本件商法を推進する上で重要な教育手段となっているものである。右受講料として別紙損害一覧表のとおり一万五〇〇〇円ないし一万円を原告らに支払わせ、同額の損害を与えた。

(三) 印紙代

会員となった者との間で「販売媒介委託契約書」を作成し、その印紙代として別紙損害一覧表記載の各原告らに四〇〇〇円を支払わせ、同額の損害を与えた。

(四) 慰謝料

原告らは本件マルチ商法に参加したことにより、家族、親類、知人等との信頼関係を損なわれ、また、本件商法に参加を勧めた者からは軽蔑されるなどして著しい精神的苦痛を受けたものであり、その慰謝料としてはそれぞれ五万円を相当とする。

(五) 弁護士費用

弁護士費用としては、各原告につき一〇万円が相当である。

よって、原告らは、被告らに対し、連帯して、不法行為ないし代表取締役の任務違反による損害賠償請求権に基づき、別紙損害一覧表の合計欄記載の各金員及び同表内金額欄記載の各金員に対する不法行為ないし任務違反の後である昭和六〇年六月一六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

二  請求原因に対する被告らの認否

1  請求原因1は認める。

2  同2は認める。

3  同3は争う。

4  同4は争う。

5  同5のうち、原告らが被告会社からダイヤを購入したことは認め、その余は争う。

三  被告らの反論及び主張

1  本件商法について

(一) 本件商法の仕組みについて

原告らは、本件商法が必然的に破綻する商法である旨主張する。

理論的にはあわゆる商法は市場が飽和すれば破綻する。被告会社の商法もその例外ではない。しかし、算術的な会員の増加と市場の有限性を論じたところで、その商法を違法とすることはできない。市場が有限であることはすべての経済取引に共通である。地域的限界性もまた同じである。連鎖型商法といえども、特段の問題もなく機能しているものも多く、いわゆるマルチ商法に対する規制措置によって、これらの商慣行に不必要な制約を加えて、流通活動のバイタリティーを損なうことは避けなければならないからマルチ商法すなわち違法ということはできない。

マルチ商法が違法かどうかは、市場の有限性によってではなく、その具体的システムが消費者に損害を与えるか否かによって決せられるべきである。後述のとおり、本件商法は再販売型マルチ商法と異なり会員に不要の在庫を滞留させることもなく、取扱う商品も消費者が出捐する金銭に見合う価値を有し、消費者に何ら損害を与えない。

また、本件商法が破綻すれば、関与者の人間関係が破綻されるという点については、ある商売を始めた者がそれに失敗すれば、人間関係が悪くなるということはあり得るが、それはあくまで一般論であって、必然性を有しない。

(二) 無限連鎖講防止法との関係

原告らは、本件商法は旧無限連鎖講防止法二条の無限連鎖講である旨主張する。

しかし、被告会社の商法は、次の点で、商品販売に名を借りた金銭配当組織ではない。

(1) 取扱う商品は、極めて質のよい宝飾品であって、会社が取得する金銭はすべてこの商品の売上げである。

(2) 全国に二〇以上の営業店舗を展開し、店頭販売を一貫して行なってきたものであって、原告ら会員はすべて右店頭で商品を検分、選定して購入したものであり、商品への着目は極めて強い。

(3) 被告会社の商品の品質向上への関心は極めて強く、高い品質の維持は会社の信用を高めるために必須であり、購入者の満足を得て更なる販売戦略を展開するうえで重要な要素であると考え、実践してきた。

(4) 原告ら会員は被告会社愛好会会員として

次回購入時の割引

リフォームサービス

会員フロアの使用

イベントへの優待、招待

全国提携施設の割引

等様々な特典を受け、購入した宝石を身に付け、これを楽しむ機会を与えられているのであって、本件商品は単なる加入証明の如きものではない。

(5) 被告会社は、あくまで宝飾品販売会社であって、商品販売以外に収益源を持たない。被告会社のシステムは既成のダイヤ流通組織に対抗していくための販売戦略である。

無限連鎖講が違法であるのは、それが破綻した時、末端の者が金銭を失うのみで何らの見返りを受けられないからであるが、本件商法では少なくとも商品が残る。この点で両者の間には根本的な相違がある。

(三) 訪問販売法との関係

原告らは、本件商法は旧訪問販売法の脱法であり、違法である旨主張する。

訪問販売法は、新旧を問わず、マルチ商法を禁止してはいない。旧訪問販売法は、「物品の再販売」、「店舗等によらないで販売する個人」、「特定負担」等を重要な柱とする法律であるから、これらの要素を有しない本件商法に同法を適用ないし準用すべき根拠を欠く。したがって、本件商法が同法の脱法であり、違法であるとはいえない。

(四) いわゆるマルチ商法の弊害と被告会社の商法について

マルチ商法の弊害として一般に、不実、誇大な宣伝等による加入の勧誘が行われやすいこと、契約内容が不明確で、加入者に不利なものとなりがちであること、商品の品質、価格が不当なものであること、契約の解除が困難で在庫の返品や投資金の回収が困難なことの四点が指摘されてきた。これを被告会社の商法について検討すれば、以下のとおりである。

(1) 被告会社の行う「宣伝」の内容は、被告会社からダイヤを購入し、ベルギーダイヤモンド愛好会員となれば一定の会員特典が受けられること、ダイヤの価値に対する一般的推奨、ビジネス教室を経てビジネス会員となりMCCを受講すればビジネス活動ができること等であって、何ら不実でも誇大でもない。特異な成功例をあげたり法外な利益を得られると錯覚させたりすることは被告会社では禁じている。

(2) 被告会社と会員との契約は販売媒介委託契約書ないしビジネス会員契約書に明示されており、何ら不明確なものでも会員に不利益なものでもない。特に右契約ではMCCの受講の外に何らの経済的負担を会員に負わせていない。このMCCの受講料は一万円であり、要求される「ビギナーズパック」の代金は五〇〇〇円であって、両者を合計しても旧訪問販売法の定める特定負担二万円に達しない。

(3) 商品であるダイヤ等の宝石は、しかるべき第三者機関による鑑定を経たものであり、その価格も正当な範囲内にある。

(4) 契約解除に関しても、被告会社は何らの制限を設けていない。また、ダイヤの売買契約に関しても、一般的原則を何ら逸脱しておらず、現に解約をめぐるトラブルは発生していない。被告会社のシステムでは会員が在庫を抱えるということがないから、マルチ商法の最も重大な弊害とされる投資金の回収不能や不良在庫の滞留という事態を生じない。

(5) 以上のとおり、被告会社の商法は、マルチ商法の弊害を極力回避すべく工夫されている。

(五) 勧誘方法の違法性について

被告会社の勧誘はビューティフルサークルにはじまる。ビューティフルサークルでは五分程度の挨拶の後、ダイヤに関する二五分程の映画を上映する。そのあと、ダイヤ及び被告会社の組織システムに関する説明を一五分程する。最後に被勧誘者を同行した会員等が、ダイヤの購入とシステムへの参加を勧誘する。全体で一時間ぐらいのものである。会場の雰囲気をよくし、一般論としてダイヤの資産価値を強調するのは、商品を売らんとするのであるから当然である。「月収数百万の収入になる。」という話は、購入者の意識からかけ離れており、逆に警戒心を持たれるので、しない方針である。もとより催眠術など用いていない。こうして種々の勧誘によって約半数の参加者にダイヤの購入意欲を持たせることができる。

購入申込をした者のうち、現実にダイヤを購入し会員となるのは全体の約二九パーセントである。七割強の者は勧誘に応じない。

また、預金通帳などを見せて月々数百万の収入があるかのように説明し、これほどのいい話しを無駄にするのは馬鹿だとか、あるいは自分を信用できないのか等は、いつ、誰が言ったのか被告会社には不明である。

(六) 独占禁止法違反について

公正取引委員会告示第一五号第八項はぎまん的顧客誘引を掲げているが、被告会社の勧誘は「実際のもの又は競争者に係るものよりも著しく優良又は有利であると顧客に誤認させる」ものではない。ビューティフルサークルにおける被告会社の説明は、単にダイヤの説明とシステムの説明及びそれへの参加の勧誘にすぎない。

同告示第九項は不当な利益による顧客誘引であるが、原告らが受けるべき利益は、原告らの働きに対する対価であって不当なものではない。また原告らは競争者の顧客ではない。

2  原告らの損害について

(一) 宝石購入代金

原告らは、被告会社と有効な売買契約を締結し、双方共その履行を了したのであるから、これを損害とすることはできない。

(二) MCC受講料

MCCは原告らが自らの意思で受講したものであって、これを損害であるとする理由はない。

(三) 慰謝料

およそある取引を勧誘したり、仲介したりすることによって、他人に嫌われたり、感謝されたりすることは、世のならいであって、それによる苦痛をもって被告会社からの被害であるとするのは飛躍である。

(四) 不法行為における損害とは、加害原因の発生前の財産の価格と加害原因後の財産の価格との差額である。そうすると、本件損害を算定するに当たっては、原告ら主張の損害額から原告らが受領しているダイヤの価格及び手数料額を控除しなければならない。

第三  証拠<省略>

理由

(証拠について)<省略>

第一当事者

請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

第二被告会社の設立から営業停止まで

一被告会社の設立及び事業計画

<証拠>を総合すれば、次の事実が認められる。

1  被告会社は、純金等を対象とするファミリー商法を行なっていた豊田商事株式会社(以下「豊田商事」という。)を中核とする企業グループ(昭和五九年四月一四日には、これを統括する会社として銀河計画株式会社が設立された。)を統括する地位にあった永野一男の発案で、昭和五八年二月八日、ダイヤモンドを主力とする宝石等を販売する会社として設立された会社であるが、当時豊田商事は既に多大な損失を計上しなければならない状態にあり、各種の関連会社を設立して、その操業による資金導入を図る必要に迫られていた。

被告会社の資本金は当初五〇〇〇万円であったが、その後昭和五八年五月三日には、一億円、翌昭和五九年一〇月二九日には一億八〇〇〇万円に増資され、その株式は全株豊田商事グループないし後の銀河計画株式会社が保有していた。

役員は、代表取締役は当初小田徹であったが、昭和五八年五月二日、被告小城が小田に代わって就任した。被告小城は、昭和五六年一二月三一日まで通産省に勤務し、退職時は福岡通産局商工部アルコール第二課課長補佐の地位にあったもので、被告会社では代表取締役としての会社の統括的な業務のほか、対外的な業務、特に通産局に勤務していた経歴を生かし、被告会社の商法について各地の通産省出先機関に対する説明等を行なっていた。

後記の藤原照久は常務取締役営業本部長であり、平井康雄は、被告会社の役員ではなかったが、後記のように被告会社の販売システムの立案に参画しただけでなく、昭和五八年五月被告会社との間で専属的コンサルタント契約を締結し、右システムにおける各種教育、例えばBC(ビューティフルサークル)、ビジネス教室(B教)、MCC(マネージメントコンサルタントクラス)、トレーナー教育等の企画、指導、講演等に従事して、右システムの実施、運営に欠かせない役割を発揮した。

2  ところで、永野は、被告会社の設立計画の段階から被告会社で宝石の「組織販売」を行なう構想を持っていた。

当時豊田商事の旭川支店長であった鴻農圭介は、永野から右構想の具体化を命じられたが、自身はその商法には素人であったため、昭和五八年三月頃、かつて化粧品のマルチ商法(マルチレベル・マーケッティング・プラン)を行なったホリデイ・マジック株式会社(同社は、昭和五〇年六月、公正取引委員会から、不公正な取引方法すなわち不当な利益をもってする顧客誘因に該当し、独禁法一九条に違反するとして、営業の中止勧告とその旨の審決を受けた。)の会員として活動したことがあり、同社の商法に通じていた友人の藤原照久に協力を求め、承諾を得た。藤原は、さっそく同人の知人で、ホリデイ・マジック社の社長秘書をしたことがあり、同社の商法に通じ、かつ当時セールスマン養成等のコンサルタント業をしていた平井康雄に協力を求め、承諾を得た。

こうして、鴻農、藤原及び平井の三者で、被告会社の販売システムを立案することになった。

3  平井が原案を作成、鴻農、藤原及び平井の三者が協議して練りあげた計画書が「ワールド・ポテンシャル・ムーブメント・プログラム」と称するものであり、これには被告会社の採るべき商法のシステムが記載されていた。

すなわち、右計画書によると、

「(一) セールス部門とマネージメント部門は同時に進行させる。九割を占める層を切り捨てることなく、ダイヤモンドメンバーであることを楽しみ、何らかの動機ができれば活動する状態にしておく必要がある。

彼らをビジネスに向けて動機づけることのできるスポークマンの存在がプログラムを左右する。

(二) セールス部門のプログラムはシンプルにし、家庭の主婦層でも参加できるようなものにする。

マネージメント部門は、売上げを設定し、力とスピードを伴わなければ昇格できないものにする。逆にいえば、短期間で次のステップにチャレンジする強烈な意欲と行動力があれば、誰でもこの組織における成功者となれるプログラムにする。

(三) 新規採用の三、四十名の従業員を渡米させ、そこでマルチレベル・システムにおけるスポークマン教育を徹底的に施し、これを販売員トレーナーにするとともに、やる気と愛社精神に満ち、管理、教育能力を備えた、被告会社の最初の核にする。

(四) このプログラムは、単に店舗とCMで商品を販売するのではなく、一購入者を販売員に育て、その販売員がビジネスに意欲を持ちながら被告会社の会員であることに喜びを持つことができるようにする。これが組織拡大の最重要点である。

(五) 通常の会社では営業の社員に対し莫大な給与や歩合給を支払わなければならないが、このプログラムでは、最初の三〇ないし五〇名のエキスパートに対する先行投資及び給与のみで会社は全国更には世界に展開して行くことが十分可能である。」

とされ、セールス部門(DM、OM)とマネージメント部門(BDA、BDM)の具体的内容、コミッション、昇格条件、トレーニング、法人化等が決められている。右の販売の具体的システムは、後記の被告会社が実際に行なった販売システムと全く同一である。

更に、右計画書は、ダイヤを商品にするメリットについて

「(一) すべての女性が欲しい商品である。

(二) 化粧品は商品代金が低いために歩合収入が低く、かなりの数を販売しないと妙味がないが、ダイヤは価格が三〇万円以上に設定されるので、有利である。

(三) 価値が不滅で、アフターケアの必要がない。」

とし、このプログラムは、購入者が動機づいて、ダイヤを何個か販売すれば、自分の購入代金はすぐ回収でき、被告会社のマネージメントコンサルタントの援助を受けて、購入者を販売員に育てれば、将来にわたってコミッションが入るプログラムであるとしている。

4  右計画は、昭和五八年四月、永野が承認するところとなり、以後右計画は、豊田商事グループの強い支配下のもとで、被告会社に同グループから役員、管理職の派遣と資金の投入がなされて、全面的に実行に移されて行った。

二被告会社の事業の展開

1  トレーナー教育

<証拠>を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 被告会社は、昭和五八年四月、大阪、広島、福岡で募集を行なって新規に採用された従業員二九名をアメリカに派遣し、同月二十二、三日から二週間、トレーナー(第一期)を育成するための研修を実施した。

トレーナーは、BCにおいて顧客に被告会社やその販売システムの紹介及び説明等をしたり、ビジネス会員になるための面接を担当したり、B教やMCCにおいて講師になったりする被告会社のスタッフであり、前期計画書ではその質と数が被告会社の販売システムの成否を左右するとされていた。

この研修には、前期鴻農、藤原及び平井も同行し指導に当たったが、カリキュラムは前期ホリデイ・マジック社の役員であったアメリカ人のリロイ・コックスが作ったものであった。

(二) 右研修は、トレーナーに寄せられた期待を反映して、方法及び内容とも相当厳しいものであった。

なお、この点について、昭和六〇年七月一三日付けの夕刊フジは、これを研修に参加したSの話として、次のように報道している。

「講師は平井氏と、平井氏が『先生』と呼ぶコックスという米国人。平井氏が『我々は遠い将来、ビッグビジネスになろうというのではない。一年以内に一兆円の企業を作るのだ』と述べて始まったそうだ。

『まず八百字ぐらいの文章が印刷された紙を渡し、そっくり暗記しろというのです。いまでも暗唱できますが、簡単に言うと、私は今月給五〇〇万円ある、なぜ私が金持ちであなたたちが貧乏かわかるか、金持ちになりたい人はこの場に残りなさい、といったようなもの。今から思えばベルギーダイヤモンドの会員を勧誘する際しゃべる言葉を覚えさせたんですね』

といってもそう簡単に暗唱できるものではない。Sさんによると平井氏は『そんなもの覚えられなくて寝られると思うか』とバ倒、食事抜き、睡眠抜きで四十八時間続けられ、やっと二時間だけ寝ることを許されたという。」

(三) 後記のように、被告会社は昭和五八年六月一日に大阪本店での営業を開始した後、次々と営業を拡大して行ったが、これに伴ないトレーナーの需要も増え、被告会社は会員の中から支店長が推薦した者について、本社の営業本部が面接して採否を決めるという方法で、トレーナーを増やして行き、最終的にはトレーナーの数は二百四、五十人になった。

これらの者はいずれも平井らの教育を受け、第一線で顧客の勧誘活動に従事した。

2  営業の開始及び拡大

<証拠>を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 被告会社は昭和五八年六月一日から大阪本店での営業を開始し、その後間も無く福岡及び広島支店を設置したのを手始めに、次々と支店を設置して営業網を拡大して行き、昭和六〇年五月時点では全国に一五支店、二三店舗を配し、全従業員数一〇一五名を数えるまでに至った。

(二) 宝石の売上額をみると、被告会社全体で、昭和五八年八月二億四〇〇〇万円、昭和五九年一月一〇億八五〇〇万円、昭和五九年三月二〇億四〇〇〇万円、昭和五九年五月四三億四三〇〇万円と短期間に急激に伸張したが、その後は伸び悩み、むしろ低下して、昭和五九年八月には二八億七一〇〇万円と落ち込んだ。

(三) 会員数及びその内訳は、昭和六〇年四月末日時点で、次のとおりである。

総会員数(愛好会会員数)

一六万七〇三八名

男 八万六九五九名

女 八万〇〇七九名

ビジネス会員数 一五万二一八六名

(愛好会会員の91.1パーセント)

DM 一三万四七三五名

(ビジネス会員の88.6パーセント)

OM 一万四四四九名

(同9.5パーセント)

BDA 二六四四名

(同1.7パーセント)

BDM 三五八名

(同0.2パーセント)

三被告会社の営業停止

1  豊田商事に対する社会的批判及び同グループの崩壊<証拠>を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 豊田商事が行なっていたファミリー商法は、要するに顧客との間で純金等ファミリー契約なる契約を締結し、顧客から純金等の売買代金と手数料を受領する一方で、顧客には純金等の引渡しに代えて、純金等ファミリー契約証券を交付し、純金等は豊田商事が預り、所定の賃貸料を顧客に前払いし、預託期間満了時に同種、同銘柄、同数量の純金等を返還するというものであったが、同社は契約締結時点で契約に見合う純金等の現物を保有しなかったうえ、顧客から受け入れた金銭を多額の経費等に費消し、満期に顧客に返還するべき純金等の購入資金及び賃貸料の支払資金に充てるべく有効な資産の運用も行なっていなかったばかりか、かえって、毎期多額の欠損を計上し、新規契約による資金の導入ができないときは直ちに倒産せざるを得ない状態にあり、昭和五九年一一月頃には殆ど経営破綻を来していた。

加えて、豊田商事の勧誘方法は、老人や主婦など社会的な弱者を対象として虚言を用いて執拗かつ強引に勧誘し、老後の生活資金等を奪うものであり、この意味でも不当なものであった。

(二) 豊田商事のファミリー契約が発売された昭和五六年から早くも顧客の苦情が相次ぎ、各地の裁判所に訴訟が提起され、警察、検察庁に豊田商事の関係者を詐欺罪等で告訴、告発するなどの動きが広まり、マスコミも豊田商事の商法を批判し、国会でも豊田商事の問題が取り上げられるようになった。

このような中で、昭和六〇年六月一八日、永野が自宅マンションで暴漢に殺害され、豊田商事及びその企業グループは総帥を失い、一挙に崩壊に向かった。

(三) 豊田商事は昭和六〇年七月一日、銀河計画は同月一二日、大阪地方裁判所で破産宣告を受けた。

2  被告会社に対する社会的批判及び同社の営業停止

<証拠>を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 被告会社は、前記のとおり、昭和五八年六月の営業開始後急激に売上げを伸ばしたが、昭和五九年六月二八日号の「週刊新潮」に、「マネーゲーム『ベルギーダイヤモンド』の怪」という記事が掲載されたのを皮切りに、昭和六〇年三月号の「現代」に「マルチ商法甘い誘惑の落し穴」という記事が、昭和六〇年七月号の「創」に「訴訟相次ぐベルギーダイヤの催眠商法」という記事がそれぞれ掲載されるなど、マスコミによって被告会社と豊田商事との繋りが暴かれたり、その商法がマルチ商法ないしネズミ講と同じである、催眠商法である、と強く批判されるに至り、昭和六〇年には東京、大阪、名古屋、広島の各裁判所に、被告会社から宝石を買った会員を原告とする損害賠償請求訴訟が提起された。

被告会社の売上げは、前記のとおり昭和五九年五月をピークとして下降線をたどるとともに、各種の経費の支出が増大して経営が悪化して行き、同年六月からは物品税の滞納や仕入業者への支払遅滞も始まり、銀河計画からの借入金がなければ、運営して行けない状態に立ち至った(ちなみに、被告会社の銀河計画に対する借入金の残高は約三〇億円である。)。

(二) そして、昭和六〇年六月、永野が死亡したのをきっかけに被告会社は営業を停止し、従業員は全員解雇された。

第三被告会社の商法における組織と問題点

一被告会社の商法における組織

1  請求原因2の事実は、当事者間に争いがない。

2  被告会社の商法における組織の特色

右1の争いがない事実と<証拠>を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 被告会社の販売媒介組織(本件組織)の特色としては、ビジネス会員は会社との間では雇用関係はなく、被告会社から手数料を得て宝石の販売の媒介に従事する関係であること(ただし、ビジネス会員は二五歳以上であることを要する。)、会員は会員である前にまず顧客であり、被告会社から宝石を一個購入しなければならないが、これを購入してビジネス会員になれば宝石の購入ないし組織加盟の勧誘活動に従事して自己の傘下に新会員を獲得でき、かくして会員の連鎖が形成されて行くこと、会員が明確にランク付けられ、昇格については会員の販売媒介額と加盟者の獲得ないし育成の程度に基づいて極めて単純、明確に基準化されていること、ビジネス会員一名が少なくとも三名を加盟させ、それぞれ少なくとも三名ずつを加盟させるというように、組織拡大が三の累乗を基本にしており、軌道に乗ればネズミ算式に会員が増加し、爆発的に組織が拡大するシステムであること、会員は宝石の販売の媒介に成功すればするほど、また、自己の傘下の会員を獲得ないし育成すればするほど、ランクが上がり、被告会社から受け取る手数料も高額、多額になり、後記のようなリクルートの有限性、困難性という問題を度外視すると、宝石代金その他の若干の費用を合計した投下資本を回収したうえ、更に莫大な利益を上げることができるシステムになっていること、などの点が挙げられる。

すなわち、会員が被勧誘者(以下、これを含めて「顧客」という。)を組織に紹介して宝石を買わせると、会社から会員のランクと累積媒介額に応じた所定の率で計算された販売媒介手数料(原資はすべて宝石の売買代金である。これはその他の手数料も同じ)という名目の金員が支払われるだけでなく、その者の上位のランク者にもランクと累積媒介額に応じた所定の率で計算された指導育成料という名目の金員が支払われ、BDA、BDMにはオーバーライドもある(以下これらの手数料を「本件手数料」という。)。

つまり、上位になると(そのための条件は要するに媒介額と加盟者の獲得ないし育成である。)、自ら宝石の販売を媒介しなくとも(自ら宝石の販売を媒介した場合の手数料率も高い。)、会社から手数料が支払われ、その総額は自己のランクが上がれば上がるほど、傘下に多くの会員を獲得すればするほど、しかも傘下の会員の系列を多く持てば持つほど、多額になるのである。

これは顧客に強い射倖心を抱かせるに十分である。

右のように、本件手数料は、新規購入者・新規加入者の宝石代金の中から会員のランクと宝石の売上高に応じて支払われるが、これは見方を変えれば、新規購入者・新規加入者の支払う宝石代金を既存会員と被告会社で分配するものといってよい。

このような手数料支払、宝石代金分配のシステムが組織加盟、顧客勧誘、宝石販売への強力なエネルギーを生み、三の累乗を基本にしてネズミ算式に組織が拡大して、大きなピラミッド状組織(その実際の状況は、前記第二の二2(三)のとおりである。)を形成する仕組みになっている。

(二) 前記のように、会員が本件組織に加盟するには、被告会社からダイヤを主力とする宝石(一般の宝石店で購入した場合と比べ価格的に高いか安いかはともかく、後記のように鑑定書ないし鑑別書で一定の品質を保証された天然の宝石である。)を一個購入しさえすればよく(もっとも、MCCの受講費用一万円ないし一万五〇〇〇円などの支払が必要である。)、後は他の顧客を組織に紹介し、被告会社と顧客との間の宝石の売買を媒介するだけで済み、上位ランクに上がるにも格別の出費を必要としない。

ちなみに、商品の再販売を前提とする型のマルチ商法は、会員に会社から商品を仕入れさせ、会員はそれを再販売するというシステムをとり(そのため会員は大量の在庫を抱え、苦境に陥るおそれがある。)、また上位ランクに上がるには追加の出費が要求され、全体として会員は多額の出捐を必要とし、再販売に失敗したときの損害もそれだけ大きいものになるが、本件商法はそれといささか異なる。

(三) 本件商法においては、宝石を購入した顧客をそれだけでベルギーダイヤモンド愛好会会員として遇し、これにいくつかの便宜を特典という形で与えている。すなわち

(1) 会員は被告会社の本、支店等の施設のラウンジ、ロビーで自由にくつろげる。また、そこではコーヒーの無料サービスを受けられる。

(2) 会員の有する宝石についてリフォーム、サイズ直し、デザイン直しを実費で受けられる。

(3) 被告会社のイベントに優待若しくは招待される。

(4) 被告会社が提携しているホテル、ガソリンスタンド、ショッピングセンターで割引を受けられる(もっとも、割引の効く店舗、割引率等その具体的な内容を認めるに足りる証拠はない。)。

(5) 会員が次に被告会社から宝石を購入するときは、一五パーセント以上の割引を受けられる。

(6) そして、最大の特典は、前記のように、本件組織の会員、すなわちビジネス会員となって、被告会社のビジネスに参加できることである。

二ダイヤモンドについて

1 被告会社のダイヤモンド

<証拠>並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(一)  一般の宝石業者の仕入れルートが、原石産出地からいわゆるデ・ビアスシンジケートを経て小売店までおよそ一二段階を経ており、それだけ多くのコストがかかるのに比べ、被告会社のダイヤの仕入れルートは、右シンジケートからイスラエル(仕入比率八〇パーセント)、ベルギー(同一五パーセント)、アメリカ(同五パーセント)の取引業者(サイトホルダー)を経て被告会社の子会社であるベルギー貿易株式会社(同社は被告会社の仕入部門を昭和五八年一一月に法人化させたものである。)に輸入され、そこから被告会社に納入されるもので、流通経路を約三分の一に縮め、コストの大幅な軽減を図っている(しかし、被告会社の現実の仕入価格の詳細を認めるに足りる証拠はない。)。

また、被告会社のように大量のまとめ買いができる場合、それによる仕入価格の値引きによるコスト減も無視できない。

しかし、被告会社は、これらによるコスト減をダイヤの販売価格に反映させるということはしていない。

(二)  被告会社が販売するダイヤ(天然石)は、G・I・A(アメリカ宝石学会)の基準で、カラーグレード(色合)はH以上、クラリティグレード(透明度)はVS以上、カラット(重量)は0.23カラット以上、カットは減点一五ポイント以下のものである。

販売に当たっては、東京宝石鑑別協会(代表者成願邦彦)ほかの鑑定機関の鑑定書(ダイヤ以外の宝石の場合は鑑別書)と被告会社の保証書を交付する。

(三)  ダイヤの販売価格

被告会社は、前記のようにしてベルギー貿易から仕入れたダイヤについて、仕入れ価格の五倍の額を基本にして値段を付ける(原則として三〇万円以上)。これは、ダイヤの標準的な小売価格は右のようになっているとの被告会社の理解に基づいている(<証拠>)。

しかし、前記のように被告会社は仕入れルートの合理化等でコスト減が図られても、これを販売価格には反映させていないから、被告会社が値段付けに当たって基準にした仕入価格とは、被告会社の現実の仕入価格(現実の仕入価格について証拠がないことは前記のとおりである。)ではなく、少なくとも一般の宝石店の標準的な仕入価格を下らない額であると考えられる。

また、被告会社は、会員が被告会社から二個目のダイヤを購入する場合を除き、ダイヤの販売に当たっては全く値引きをしないが、一般の宝石店ではバーゲンセールなどの方法でかなりの値引きをする。

したがって、被告会社のダイヤについて言えば、顧客は、一般の宝石店でダイヤを買う場合と比べ、値引きもない高い価格でダイヤを買うことになる(他の宝石の場合も同じ。)。

被告会社が顧客に販売したダイヤの販売価格は、三〇万円から四〇万円の価格帯が殆どである。

2 ダイヤの商品としての特殊性

<証拠>並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

具体的なダイヤに対する評価や値段付けは、専門家を含めそれを見る者の主観によって大きく左右される。また、ダイヤは卸値と小売値の乖離が激しい商品であり、市中では後者が前者の五倍という例もある。

そして、最も注意すべきは、ダイヤを購入した者が何らかの都合で換金しようとする場合、これを売りに出す統一した市場がなく、株や不動産のように売買の仲介をする専門業者もいないために換金することが難しい(宝石店は原則として買戻に応じない。この点は被告会社も同じである。)。特に被告会社が専ら販売した0.25ないし0.30カラットという小粒のダイヤの場合はこの傾向が顕著であり、古物商などで購入価格を大幅に下回った、いわば買い手の値でダイヤを手離すほかなく、その資産としての価値は至って乏しい。

現に、被告会社からダイヤの裸石(ルース)ないし指輪などの加工品又はエメラルド指輪を購入した一一名が、昭和六〇年一〇月に、大阪市内にある宝石店で現物を見せて時価の見積りをしてもらったところ、同店はいずれにも被告会社からの購入価格のおよそ一〇分の一の値をつけた。しかも、同店は「宝石業者間の取引価格」という条件で見積ったものであって、右の値はそれで宝石店に売れるという値ではないから、右一一名が前記のように古物商などで処分せざるを得ないときは、ダイヤが買った時そのままの状態であっても購入価格の一〇分の一にも満たない安値にならざるを得ない。

三本件組織の問題点

1 無限連鎖講との共通性ないし類似性

本件組織を旧無限連鎖講防止法にいう無限連鎖講と比較すると、次の点で共通性ないし類似性が認められる。

(一)  本件組織に加盟してビジネス会員となるには、主宰者である被告会社に金銭を支出しなければならない。

(二)  ビジネス会員は二五歳以上でなければならないとの制限以外に、会員に対する数的制限がなく、これが無限に増加して行くことが予定されている。

(三)  ビジネス会員は一名が少なくとも三名を加盟させ、右三名がそれぞれ少なくとも三名ずつ加盟させることにより、三の累乗を基本にして増加し、これが繰り返されて会員の連鎖が形成される仕組みになっている。

(四)  新規会員の支出した金銭が主宰者と既存の会員との間で順次分配され、既存の会員は自己の支出した金額を上回る金銭を取得することが予定されている。

反面、次の点で差異がある。

(一)  無限連鎖講が一定額の金銭を支出して講に加入するのに対して、本件は被告会社から宝石を買い、その代金という形式で被告会社に金銭を支出する。

(二)  右のように宝石の売買という形式をとるので、宝石が多種多様であるのに伴い、加盟者が被告会社に支出する金銭がかならずしも一定しない。

しかし、右(一)の無限連鎖講の入会金との関係については、既に認定した被告会社が扱う宝石の価値の特殊性及び価格のほか、後記認定のとおり、顧客が本件組織に加入するに当たり、さして宝石の価値に着目していなかったことからすると、それをもって無限連鎖講との決定的な差異ということはできず、また、右(二)の点は、被告会社の宝石の価格は三〇万円から四〇万円の間が最も多く、この範囲で大体一定しているともいえるので、それも大きな差異ではない。

2 リクルートの有限性ないし組織破綻の必然性

<証拠>及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

本件組織は、前記のようにネズミ算式に会員が増殖して行くことが予定された組織であるが、そもそも人口は有限であるし、すべての国民が本件のような商法に反応し、参加するとは到底考えられないから、算術上、早晩組織の拡大は壁にぶつかり、新会員の獲得が著しく困難になる時期が来ることは避けられない。すなわち、本件組織は本質的にいずれは破綻せざるを得ない性格を帯有している。

更に、この組織の本質をいち早く見抜いた識者やマスコミ、団体の批判はその破綻時期を早める。

もちろん、一般に市場の有限性という問題は、他の通常の販売組織にもあるが、他の販売組織の場合は、需給の動向に合わせて、弾力的に組織の拡大、縮少、変更をする素地を保有し、かつ、投下資本の回収に要する諸条件に応じた販売体制を作り、それにより投下資本の回収及び利潤の追及を図るものであり、本件組織のように拡大一方の硬直したものとは基本的に異るし、また、市場が飽和状態になった場合は、新製品を開発して新たに市場を開拓して市場の有限性を克服して行くことができるのであるから、直ちに組織の破綻にはつながらない。

このように本件組織はいずれ破綻することが必定であり、この点も無限連鎖防止法にいう無限連鎖講の場合と全く同一である。

そして、現実に前記の次第で被告会社は昭和六〇年六月営業を停止し、従業員を全員解雇し、本件組織は破綻した。これは根本的には被告会社の商法にリクルートの有限性、組織破綻の必然性及び後記第四、第五のように違法、不当な勧誘方法など多くの問題が内在したからであり、それゆえにこそマスコミの批判を初め、強い社会的批判を浴び、破綻への具体的な過程が始まったのである。

四経済的損失について

1 宝石が残ることについて

本件組織が破綻した場合でも、すべての会員の手元には自らが購入した宝石が残るわけであるが、後記第四の二1のように、大多数のビジネス会員は、宝石そのものに対する価値若しくは欲求から購入したのではなく、宝石の購入代金を含む投下資本を上回る手数料にひかれて、かつこれを得ることが可能だと信じて、ビジネス会員になるために必要なダイヤを購入したものであり、右のような志向を持って本件組織に加入したビジネス会員が組織の破綻によって損害を受けたか否かは、単にダイヤを希望して購入した消費者としての立場を越えて、まさにビジネス会員として目的とした金銭的利益が得られたか否かの問題であると考えるべきであるから、本件組織に加入した会員の損失の有無については、消費者が通常の宝石店で購入するときに支払う宝石の対価を基準とするのではなく、それを処分するとしたときの宝石の交換価値(処分価格)に基づいて判断するのが相当である。

そうすると、ダイヤは、前記第三の二1、2のように、見る者の主観によって価値が大きく左右されるのみならず、換金性が非常に制約され、特に小粒のダイヤの場合購入価格と比較して極端に低廉な価格になり、その資産価値は極めて乏しい上、被告会社の宝石は値引きがなく市価と比較して相当割高な価格設定がなされているから、宝石が会員の手元に残ったから直ちに本件組織破綻による経済的損失が生じなかったということはできない。

すなわち、後記第七の六1のように、被告会社から購入した宝石の処分価格相当額は、購入価格の八パーセントを超えるとは考えられないから、購入代金額、MCC受講費用(後記第四の一8のように一万五〇〇〇円ないし一万円)及び印紙代(四〇〇〇円)の合計額と購入代金額の八パーセント及び得られた手数料額の合計額とを比較して、後者が前者より少ない場合は、ビジネス会員に組織破綻による経済的損失があるというべきであり、右差額が右経済的損失に当たるというべきである。

2 愛好会特典について

本件組織が破綻し、投下資本を上回る手数料を得るとの目的を遂げずに終ったビジネス会員が出たとしても、すべてのビジネス会員は同時に愛好会会員であり、その特典を行使できる立場にあったものである。

しかし、それらは付随的なものに過ぎず、また前記第三の一2(三)のように、右特典のなかには具体的内容の明らかでないものがあるうえ、全体として会員にとってさほど実際的利益のあるサービスとは考えられないし、会員が実際にどのようなサービスを受けたかを認めるに足りる証拠もないから、このような特典があったからといって、会員の前記のような経済的損失が事実上補てんされたともいい難い。

第四被告会社の勧誘活動

一被告会社の勧誘活動と問題点

<証拠>並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

1  勧誘の対象者

被告会社の勧誘活動の対象は、ビジネス会員は二五歳以上という制限はあるものの、商業の知識、経験の有無を問わず、例えば主婦を含む広い層に意識的に広げられている。ビジネス会員の役割は取りあえず後記のように自己に身近な人間を被告会社に同行することで足りるとされていることが勧誘対象者の拡大を可能にしている。

2  顧客の被告会社への案内

被告会社の顧客に対する宝石購入の勧誘活動は、ビジネス会員(紹介者)が、その友人、知人等身近な人間に被告会社を紹介し、被告会社の本、支店に連れて来るところから始まる。

ただし、顧客を被告会社に連れて来る際は、警戒されるのを恐れ、宝石の話は絶対にしないように指導されている。したがって、顧客は被告会社に来てビューティフル・サークル(BC)という説明会に出て説明を聞くまで、自己が何の為に被告会社に連れてこられたか分からない。

顧客を被告会社に誘うには公衆電話がよいとされ、勧誘文句はマニュアル化されており、「電話ではとても話し切れない。あなたにとって決して無駄にならない素晴らしい話です。」「資料とか、電話ではお見せできない。でも私がお誘いするのですから、私を信頼して必ずおいで下さい。来て頂くだけの値打ちのあるものです。」というようなものであるが、顧客との関係、顧客の反応に応じて使い分けるように指導されている。

3  ビューティフル・サークル(BC)

顧客は、被告会社に着いて、「ゲストカード」に記入することになっているが、まず広い部屋、豪華なテーブル、椅子、じゅうたん、ソファーなど店の設備、調度が立派なのに驚かされる。

ところで、被告会社は、BC、ビジネス教室(B教)、マネージメント・コンサルタント・クラス(MCC)、BDAトレーニング、BDMトレーニングというように、顧客ないし会員の段階に応じて、宝石の購入及びビジネス参加への意欲を引き出し、あるいは勧誘や管理能力を磨くための説明会や教育ないし研修を幾重にも設定し、これを被告会社の勧誘活動の根幹としている。

BC、B教、MCCは集団で行なわれるが、被告会社はこの会場設営(例えばBC会場は、日本とベルギーの国旗が揚げられ、荘厳な雰囲気である。)、音楽、照明、服装(例えば被告会社の従業員には正装させる。)、講師の話の順序、内容、口調等に細かく神経を使い、周到に準備し、MCCのように参加者の感情や雰囲気を盛り上げるべき場ではこれを熱狂的に盛り上げるなど、巧みに演出をする。

まず顧客は、そこで行なわれるBCに参加する。BCは一日三回行なわれており、どれに参加してもよい。BCでは、映画とトレーナーの口頭説明により、被告会社の事業、ダイヤの四C等ダイヤに関する知識、被告会社のダイヤの特徴、愛好会会員の特典、ビジネス、すなわち被告会社の宝石販売システムの概要などの説明が約一時間にわたり行なわれる。

会社説明の中では、被告会社の社長は元通産省の役人であったということが強調される。

このBCにおいても、トレーナーは、被告会社のビジネスに参加すれば高収入を得ることができるという趣旨の話をする。BDMなど被告会社の販売システムで成功した会員に参加者の前で体験発表をさせることもある。

このBCには紹介者も同席する(これはB教や承認面接、MCCでも同じ)。

4  BDA又はBDMによる勧誘

BC後、フロアーで紹介者、紹介者の上司たるBDA又はBDM(これらが複数のときもある。)による宝石購入とビジネス参加の勧誘を受ける。

被告会社は顧客の勧誘においてABC方式と称する方式をとっている。これは、勧誘の際、C(顧客)に対するA(BDA又はBDM)、B(Cを被告会社に伴ってきた会員。紹介者)の役割分担を明確にし、勧誘の実を上げようとするものである。すなわち、BはCを被告会社に連れてきてAに紹介する、ダイヤ購入やビジネス参加への勧誘は知識、経験の豊富なAが担当し、BはAを「ティーアップ」する(高くする)、また、BはビューティフルサークルなどにもCと同席し、Cのためいろいろな世話をする。

総じて、被告会社の商法は、末端会員とその家族、友人、知人といった身近な人間との間の信頼関係を利用することで成り立っている商法といえる。勧誘の対象の面でもそうであるし、勧誘の最終段階でも、顧客をダイヤ購入とビジネス参加に踏み切らせるものは最後は末端会員と顧客との間の信頼関係だということを熟知して、これを巧みに利用している。

前記Aの説明、勧誘の中では、被告会社のビジネスに参加して自分らがいかに高収入を上げているかという話がされる。例えば「これまで一〇〇〇万円以上もうかった。」「月に一〇〇万円ぐらい収入がある。」というように、庶民にとっては夢のような話がされる。Aの貯金通帳を見せられることもある。そして「こんな素晴らしいチャンスは二度とない。」などと強調される。

5  宝石の購入申込み

宝石を買う気になった顧客は、宝石売場に行き、陳列してある商品の中から宝石を選び、購入申込みをする。三〇万円から四〇万円のダイヤを買う客が多い。代金の支払方法には現金払、頭金を入れてクレジットないしローンを利用する方法の二通りがある。客が購入申込み後四日以内に右のいずれかの方法をとらない場合、被告会社は契約を解約することができる。

右四日の期間は、顧客から契約を解約できる期間という明確な形では規定されていないが、いわゆるクーリングオフと同じ機能を果たすものであることは否定できない。しかし、被告会社においては、顧客からの契約の解約を防止するために、前記Bは右四日の間Cに電話を架けるなどして説得を続けるように指導されていたので、このような権利行使が全く自由であったわけではない。

6  ビジネス教室

ビジネスに参加する気になった顧客は、宝石の購入申込み後、その本、支店で行なわれるビジネス教室(B教。一日二回行なわれ、どれに参加してもよい。)に参加する。B教では、ビジネス・テキストを用い、トレーナーにより、ビジネスに関する具体的な説明、すなわち販売プログラム(会員のランク、昇格条件)、手数料の計算方法、ビジネスの流れ、クロージング(商談)の仕方、その他インセンティブ(賞)などに関する説明が行なわれる。

ビジネス教室に参加し承認面接を受けてビジネス会員になることも、その時期も、本来愛好会会員の完全な自由に任されるはずであるが、被告会社においては、宝石購入申込み後の解約防止のためには早くビジネス会員にならせることが有効であるとの考えのもとに、会員にできるだけ早い機会に右の手続をさせるように指導していた(これはMCCも同じ)。

7  承認面接及び販売媒介委託契約の締結

その後顧客はトレーナーによる承認面接を受ける。この面接の際、顧客は「参加意志再確認書」、「資格検定書」、「誓約書」に記入し、提出する。

全体として、承認面接は短時間であり(五分ないし二〇分程度)、面接者から実のある質問や具体的説明はなく(例えば「誓約書」には、「ダイヤモンドは利殖になるとか、又このビジネスは絶対に儲かる等射倖心を煽る行為・言葉使いをしない。」など内容的には重要な事項が含まれているが、これに関し面接者から具体的説明などはない。)、面接、誓約は形式的で、殆ど全員が合格し、真の適格者を選ぶという機能を果たしていない。

また、前記第三の三2のようにリクルートは有限であるうえ、実際のリクルート活動にはさまざまな困難が伴い、勧誘に成功するのは容易ではないが、承認面接の場ではこれらに関する具体的説明はない(これは後のMCCでも同じ)。

承認面接後その結果は直ちに本人に知らされる。

面接で承認された者は、直ちに「販売媒介委託契約書」ないし「ビジネス会員契約書」に署名し、ビジネス会員(ランクはDM)となる。

8  マネージメント・コンサルタント・クラス

ビジネス会員となった者は、次にマネージメント・コンサルタント・クラス(MCC)を一度受講しなければならない。これは、一週に一回土曜日、日曜日の二日間午前九時から午後九時までの予定で本、支店で開催される(ただし、昭和五九年一〇月以降土曜日だけの一日制に変更)。受講費用は一万五〇〇〇円(受講料一万円、「ビギナーズパック」代五〇〇〇円)である。

MCCは、要するに、被告会社の商法を理解し、ビジネスに対する意欲に満ちた販売員を育成するための場である。大阪本店の場合、前記平井や藤原が講師になることも多かった。

MCCの講義は大きく分けて、人生で成功するための秘訣を説き、会員の意識改革を図り意欲を引き出す目的の部分と、被告会社の商法やノウハウに関し説明ないし教育する目的の部分とがある。

前者の部分では次のようなことが語られる。

「人生の成功者は全体の五パーセントで、残りの九五パーセントは失敗者である。多くの人は人生で何故失敗するか、五パーセントの中に入るにはどうしたらよいか。怠惰な生活、中産階級意識を捨て、自分自身の夢に挑戦しなければならない。」「自分自身を既に成功者とみなさなければならない。」「リーダー意識、積極性、一〇〇パーセントの参加意識を持つことが重要だ。」「月収一〇〇万円を目標にせよ。」

後者の部分では、ビジネスの流れ、ABCの販売方式、ダイヤの知識、勧誘の際被告会社の商法に疑問が述べられたときの反論の方法などの講義がある。

そして、MCCの最後に、会員一人一人が会場の前に出て、決意表明をすることになっている。

9  まとめ

被告会社のビジネス教育ないし研修のテーマは、要するに、高収入を得てこの世の成功者になるにはどうしたらよいか、ということである。

そして、被告会社のビジネスで努力すればこれが可能である、現に自分(講師ないし勧誘者)はこれまで得られなかったような高収入を得ていると説く。これが各種の機会に、複数の者によって熱っぽく説かれる。

加えて特徴的なことは、被告会社は、勧誘の効果を上げるために、説明会や研修会の会場設営、音楽、照明、服装、講演内容等に細かく神経を使い、周到に準備し、雰囲気を盛り上げ、これを最大限に利用していることである。

その結果、顧客ないし会員は、自分も被告会社で大きな利益を上げられるかのような気になって行く。同時に、被告会社はさまざまな角度から会員に販売員としてのノウハウ、心得を教育して行く。

会員が手数料を取得するには宝石の販売の媒介など会員の役務を条件とするとはいえ、また、被告会社が新興企業であり会社としての知名度が低く、一般にこのような企業はある程度積極的な販売活動が必要とされることを割り引いて考えても、多くの顧客ないし会員が実際に手にすることのできる利益に比して被告会社の勧誘ないし宣伝は過剰なものであり、被告会社の商法は顧客ないし会員の射倖心を煽るものというを妨げられない。

二顧客の反応

<証拠>並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

1  顧客は、トレーナーなどの講義、勧誘者の話を聞いて、最初は疑問を感じながらも、やがて自分も被告会社のビジネスができ、利益、すなわちダイヤの購入代金その他これに費やした費用以上の収入を得ることができるような気になり、自己の信頼する友人、知人が勧めるのだからという安心感やその人に対する義理も手伝って、被告会社に来る前は思ってもみなかったダイヤを買い、いつの間にか被告会社のビジネス会員になってしまったという例が多い。

また、少なくとも大多数の客にとっては、被告会社からダイヤなどの宝石を買ったのは、ダイヤが欲しかったからではなく、本件手数料が欲しかったからであり(少なくともそれが主たる動機であり)、宝石はビジネス会員になるためにはこれを買うことが必要であったから買ったまでである。

そうでなければ、前記第二の二2のようにダイヤモンド愛好会会員の91.1パーセントがビジネス会員になったこと、被告会社から宝石を買った顧客は女性より男性の方が多いこと、宝石専門店は他に多数あり、むしろそういう店で買った方が安価に宝石を入手できるであろうのにその道は選ばず、決して宝石の専門業者ではなく価格も割高な被告会社のダイヤの方に多数の顧客が魅せられ、被告会社が短期間のうちに急速に売上げを伸ばすことができた理由などについて、説得力がある説明ができない。

2  被告会社の昭和六〇年四月分の営業日計表(全店分。<証拠>)によれば、同月一か月間に被告会社に来た顧客のうち宝石の購入の申込みをした客の割合(売約率)は53.6パーセント、そのうち四日以内に代金の支払などを終えて契約を確定させた客の割合(成約率)は54.7パーセントと極めて高いものであった。

右売約率については、右時期が被告会社がその商法や豊田商事との繋りを社会的に批判されるようになった後であることを考慮すべきである。むしろ、そういう時期であっても、被告会社の店舗に来た顧客のうち、53.6パーセントもの客が、三、四〇万の高価品しかも不要不急の商品の購入を、来たその日のうちに決め、かつ、申し込んだという事実こそ注目すべきであろう。

また、右成約率については、宝石の購入申し込みがいかにその時の状況ないし心理に支配されたうえでのものであったかを物語っていると理解することもできるし、むしろ前記第四の一のような被告会社の勧誘の実態を考慮すれば、そのように理解するのが自然というべきである。

第五被告会社の商法の違法性

一無限連鎖講防止法との関係について

旧無限連鎖講防止法は、無限連鎖講が終局において破綻するべきものであること、いたずらに人の射倖心を煽るものであること、組織が破綻した場合加入者の相当部分に経済的損失を与えることに鑑み、これを開設したり、運営することを懲役刑を含む罰則をもって禁止するという厳しい態度をとっている。

本件組織と右無限連鎖講の多くの共通性ないし類似性は、前記第三の三のとおりである。

ところで、前記第四の二のとおり、ビジネス会員の大多数は不要不急の商品である宝石が欲しくてこれを買ったのではなく、本件組織に加盟して金銭的利益をあげるためにこれを買ったものである。

そして、宝石は見る者の主観によって価値が大きく左右され、卸値と小売値の乖離が大きい上、被告会社の宝石の価格はその仕入価格が低く押えられている反面、業界で一般的にみられる値引きが認められていないので相当割高であり、これらの点に顧客に強い射倖心を抱かせる金銭分配システムの原資を生む秘密があると考えられる。

したがって、本件組織が無限連鎖講と異なり、顧客と被告会社との宝石の売買という形式をとっていても、右売買代金は、客観的に見て、無限連鎖講の加入金と同一の性格を色濃く有することを否定できない。

そして、本件組織が、顧客に強い射倖心を抱かせ、右射倖心を梃子にして宝石販売、会員獲得及び組織拡大を一気かつ大々的に進め、主宰者である被告会社に莫大な金銭を集めることを狙った組織であることは、被告会社の設立時の前記事情及び本件組織原理上から明らかというべきである。

ところが、本件組織はリクルートの有限性という厳しい制約から免れ得ず、無限連鎖講と同様、必ず破綻することを運命づけられた組織である。

そして、組織が破綻しても会員の手元に宝石は残るが、宝石の価値はこれを見る者の主観によって大きく左右される上、換金性が非常に制約され、特に被告会社が販売した小粒の宝石の資産価値は極めて乏しいことに照らすと、会員は手元に宝石が残るだけでは経済的な損失を免れ得ない。

また、被告会社の顧客に対する宝石購入及びビジネス参加の勧誘方法は、前記の本件組織の性格、目的を反映し、かつこれを浮び上がらせるものになっている。すなわち、人の金銭的欲望を巧みにつき、一部の極端な成功例を紹介し、本件組織の中で努力すればそのように成功することができると言って高収入獲得への欲望を煽り、これを利用するものであって、いたずらに関係者の射倖心を煽るものというべきであり、この点も無限連鎖講と共通する。

以上を要約すれば、被告会社の商法は、無限連鎖講に極めて近い性格を持ち、破綻することが必然的な組織を開設して、顧客及び会員の射倖心を煽る宝石販売と組織加盟の勧誘活動を行ない、その破綻により多くの会員に経済的損失を被らせたものということができる。

そうすれば、本件組織は前記無限連鎖講防止法にいう無限連鎖講そのものであるとまでは断定できないにしても、前記のような無限連鎖講防止法の趣旨及び規制は、右商法の違法性を判断する上で考慮に入れるべきはむしろ当然である。

二訪問販売法との関係について

1 旧訪問販売法は、その一二条において、連鎖販売取引の勧誘に当たっては、その重要事項について、故意に事実を告げず又は不実のことを告げてはならないとしている。本件商法が右旧訪問販売法のいう連鎖販売取引そのものに当たるとはいえないにしても、本件商法は前記のとおり組織形態的には右連鎖販売取引と共通するし、同法が目的としている消費者の損害の防止という見地並びに信義誠実の原則にも照らして考えると、同法の右規定の趣旨は本件商法にも推し及ぼされるべきである(なお、右改正後の訪問販売法は、本件のように会員が売買の媒介をする場合を明確に連鎖販売取引に含めている。)。

そうすると、被告会社は、勧誘に当たっては、リクルートの有限性や困難性に関する事項を予め顧客に告知するべきであったというべきであるが、被告会社はこれを一切行なっていない。

2 ところで、同法の掲げる消費者の保護及び商品の適正かつ円滑な流通という見地から、更に次のような点も指摘しなければならない。

すなわち、個人客が小売店から商品を購入する場合は、まず店を選択し、商品に関して必要な知識や情報を得、購入する時期や方法を検討し、ある程度時間をかけて商品を十分吟味したうえで購入するのが通常であり、宝石のような高価品の場合、特にそれがいえる。そして、そのような過程が十分保障されることによって、商品に関する情報が氾濫している現代社会において消費者の利益が保護され、商品の適正かつ円滑な流通に寄与することにもなるのである。

ところが、被告会社から宝石を購入した本件顧客らは、極めて短絡的、衝動的に宝石購入に至っている。その原因は前記第三、第四のような被告会社の独特の販売システムと勧誘方法にあることは明らかであって、これは消費者の保護及び商品の適正かつ円滑な流通という見地からも見過ごせないというべきである。

三独占禁止法との関係について

被告会社の勧誘方法は「販売媒介手数料」ないし「指導育成料」という、正常な商慣習に照らして不当な利益によって顧客を勧誘するものであることを考慮すれば、独占禁止法二条九項に基づく昭和五七年公正取引委員会告示第一五号「不公正な取引方法」の九項「不当な利益による顧客誘引」に該当するということができるし、本件組織上、投下資本を回収し文字どおり成功できるのは早期に加入した一部の会員にすぎず、あとから加入した多数の会員はこれが不可能又は困難で、むしろ損失を被る者がはるかに多いことを考慮すれば、同八項にいう「欺まん的顧客誘引」に該当するということもできるから、被告会社の商法は同法にいうところの不公正な取引方法と本質的部分において共通するものがある。

四その他

本件商法については、前記のとおり、

1 被告会社の勧誘活動の対象は、ビジネス会員は二五歳以上という制限はあるものの、商業の知識、経験の有無を問わず、例えば主婦を含む広い層に及んでいること(ちなみに<証拠>によれば、原告らの職業の内訳は、主婦四、会社員三、自営業四、無職二である。)、

2 被告会社の勧誘活動は、設備、勧誘方法、教育ないし研修の内容、方法などが周到に準備ないし企画され、演出された計画的で大規模なものであること、

3 被告会社の勧誘方法は、目的を知らせないまま顧客を被告会社に案内したうえ、顧客の心理や欲望を巧みにつき、これを利用して行なう商法であること、

4 被告会社の商法は、会員に家族、友人、知人など自然で素朴な信頼関係で結ばれた者を金銭的利益のために利用させるものであるが、これ自体健全な社会観念に反するのみならず、会員の家庭内に無用の混乱をもたらし、その友人や知人がリクルートに失敗したときは当然ながら右信頼関係が破壊され、会員は友人や知人を失うに至るばかりか、場合により深い怨恨を残すもとになること

等が認められる。

五まとめ

取引の自由は最大限尊重されるべきことは勿論であるが、以上一ないし四の諸点を総合的に考慮して判断すると、本件商法はこれを社会的相当性あるものとして是認することは到底できず、違法というべきである。

第六被告らの責任

一被告会社の責任

被告会社は、事業を行なうに当たり、販売システム、顧客の勧誘方法等に注意し、顧客に損害を与えないようにするべき注意義務を負っているというべきであるところ、前記第五のように違法な本件商法を会社として開始し、遂行したものであって、少なくとも会社としての過失があったことは明らかであるから、民法七〇九条により原告らが被った損害を賠償するべき責任を負う。

二被告小城の責任

被告小城は、昭和五八年五月以降、被告会社の代表取締役として、被告会社の業務全般を統括していたものであるが、業務の遂行に当たっては、販売システム、顧客の勧誘方法等に注意し、顧客に損害を与えないようにするべき注意義務を負っているというべきであるところ、被告会社に違法な本件商法を開始ないし遂行させたものであって、少なくとも過失があったことは明らかであるから、民法七〇九条により原告らが被った損害を賠償するべき責任を負う。

三なお、被告らの右責任は連帯責任である。

第七損害

一宝石購入代金等

<証拠>を総合すれば、原告らは、被告会社の前記第四のような勧誘を受けて、別紙損害一覧表の購入年月日欄記載のとおり昭和五八年一〇月二七日から昭和六〇年四月一五日までの間に、同表購入宝石欄記載の宝石を購入し、その代金額は別紙認容額一覧表のダイヤ購入金額欄記載のとおりであったこと、原告土屋、同山本、同藤原、同喜多及び同椿を除くその余の原告らは、各代金全額を被告会社に支払ったこと及び右四名の原告らは、クレジットないしローンを利用し、これによる債務の既払額は、原告土屋が二五万三八〇〇円、同山本が二三万九七二〇円、同藤原が二五万八一〇〇円、同喜多が一四万七〇〇〇円及び椿が九万九七六〇円であることが認められる。

したがって、原告らは右代金額(ただし、原告土屋、同山本、同藤原、同喜多及び同椿の場合はクレジットないしローン契約上の債務の既払額)と同額の損害を被ったというべきである。

二MCC受講費用

右一の証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告らは、別紙認容額一覧表MCC受講費用欄記載のとおり、被告会社によりビジネス会員として受講することが必須のものと定められたMCCを受講するべく、受講費用各一万五〇〇〇円ないし一万円を被告会社に支払ったことが認められる。

したがって、原告らは右受講費用と同額の損害を被ったというべきである。

三印紙代

<証拠>を総合すれば、別紙認容額一覧表印紙代欄記載のとおり、原告茂山、同喜多、同椿、同前田は、被告会社と販売媒介委託契約を締結するに当たり、契約書に貼付する印紙代として各四〇〇〇円を被告会社に支払ったことが認められる。

したがって、右原告らは右金額と同額の損害を被ったというべきである。

四慰謝料

前記第四のように、本件商法は、本質的にビジネス会員とその身近な人間、すなわち家族、親戚、友人、知人等との信頼関係を利用して遂行される商法である。

前記第七の一の証拠によれば、原告らの中には、被告会社のビジネス会員になったり勧誘活動をしたことにより、家族から叱られたり、親、兄弟との間に一時溝ができたり、自己が勧誘した相手と不仲になったり、職場で変に思われるなどの体験をしたと述べる者があるが、問題はそれがどの程度のものか、つまり金銭賠償を命じなければならない程度のものかどうかである。

原告らの受けた精神的苦痛の程度については、本件証拠上これが金銭賠償を命じなければならない程度のものとは認め難い。

もともとこれは人によって異なる事柄であるし、家族や友人との関係如何によっても左右されるであろう。また、右のような申告をしない原告もいるのである。

そのうえ、前記一の証拠によれば、原告らが被告会社の勧誘に応じ本件組織に加入してしまった原因の一つとして、原告らの考え方に甘さがあったことも認めざるを得ず、ある程度それによる結果を甘受することもやむを得ない。

そうすると、一部の原告らの前記のような体験ないし感情は、いまだ原告らにつき慰謝料を、しかも一律の慰謝料を認容するには足りないものというべきである。

五弁護士費用

本件事案の難易、審理の経過、認容額等を考慮すれば、弁護士費用は、原告大形、同喜多及び同椿を除くその余の各原告につきそれぞれ五万円、原告大形と同喜多につきそれぞれ三万円、同椿につき一万円とするのが相当である。

六損益相殺

1  宝石の処分価格相当金

前記認定のとおり、原告らは、本件組織に加入するに当たり被告会社からダイヤなどの宝石を購入し、これを所有するに至ったから、公平の見地からすれば、原告らの損害額から、右宝石の処分価格相当額を控除するべきである。

しかし、前記第三の二2のように、宝石は主観によって価値が左右されるし、換金性が大きく制約されているから、この判定は極めて困難である。

当裁判所は、前記第三の二2のように、被告会社が販売した宝石が宝石業者間で取引された場合の価格はおおむね購入価格の一〇分の一とみられること、しかし原告らが本件宝石を何らかの方法で処分する場合、たとえ宝石が買った時そのままの状態であっても右価格より更に安価になるであろうことを考慮し、原告らの購入価格の八パーセントに当たる額を宝石の処分価格相当額と認める。

これを計算すれば、原告らの各宝石の処分価格相当額は、別紙認容額一覧表記載のとおりとなる。

2  原告らが得た本件手数料

<証拠>によれば、原告大形及び同椿は本件組織に加入しビジネス会員として活動した結果、原告大形は三人に宝石を買ってもらい二三万八一二四円の、同椿も七万円の各手数料の支払を被告会社から受けたことが認められる。

そうすると、公平の見地からして、右両名については損害額から右各手数料額を控除するべきである。

七まとめ

以上を合計し、控除するべき金額を控除すれば、被告らが原告ら各自に連帯して支払うべき損害賠償額は別紙認容額一覧表の合計額欄記載のとおりとなる。

第八結論

以上によれば、原告らの本訴請求は、被告らに対し、連帯して、原告ら各自に別紙認容額一覧表の合計欄記載の各金額及び同表内金額欄記載の各内金に対する本件不法行為の後である昭和六〇年六月一六日から支払済みまで、年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないからいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項ただし書、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官海保寛 裁判官若宮利信 裁判官前田昌宏)

別紙当事者目録

原告 香積喜静

原告 茂山昌司

原告 黒木淑子

原告 土屋要

原告 山本美千子

原告 一井ゆた子

原告 藤原まし子

原告 寺田光子

原告 大形藤治

原告 喜多倫子

原告 椿郁苑

原告 西馬聖美

原告 前田厚子

右一三名訴訟代理人弁護士 喜治栄一郎

同 上原武彦

同 大深忠延

同 小田耕平

同 北岡満

同 千森秀郎

同 寺内清視

同 西口徹

同 林伸夫

同 平野鷹子

同 山崎昌穂

同 若林正伸

同 浅岡美恵

同 飯田昭

同 折田泰宏

同 湖海伸成

同 下谷靖子

同 豊田幸宏

同 黛千恵子

同 村井豊明

同 山崎浩一

同 伊東香保

同 川端俊江

同 梶原高明

同 木村治子

同 木村祐司郎

同 小林広夫

同 永田徹

同 松重君予

同 山根良一

同 吉井正明

同 渡邊守

被告 ベルギーダイヤモンド株式会社

右代表者代表取締役 小城剛

被告 小城剛

右二名訴訟代理人弁護士 伊藤文夫

別紙損害一覧表<省略>

別紙認容額一覧表<省略>

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